留学していたとき、私はホームステイをしていました。家族と同じ食卓を囲む生活は、日本での実家暮らしとはまったく違い、文化の差を肌で感じる毎日の連続でした。その中でも特に印象に残ったのが、食事に対する考え方の違いです。
まず驚いたのは、食事の時間の自由さです。日本では「家族そろって夕食を食べる」というイメージが強いですが、私が滞在していた家庭では、それぞれが自分の予定に合わせて食べることが多くありました。冷蔵庫やキッチンには簡単に温められる料理が用意されていて、帰宅時間が違っても各自で取り分けて食べるのです。最初は「家族みんなで一緒に食べないのは少し寂しいな」と思いましたが、だんだんとそれも合理的なスタイルだと感じるようになりました。
次に印象的だったのは、食事のボリュームとシンプルさです。日本の家庭料理は、主菜、副菜、汁物とバランスを考えた品数が多いですが、アメリカではワンプレートで済ませることが多い印象でした。例えば、ハンバーガーとサラダ、ピザとフルーツ、パスタとパン、といった組み合わせです。最初は「これで夕食が終わり?」と驚きましたが、アメリカ人にとっては満足できるスタイルのようです。
さらに、食事中の会話も印象に残っています。日本だと「静かに食べなさい」と言われることがありますが、アメリカの家庭ではとてもにぎやかでした。学校の話、仕事の話、テレビのニュースなど、食事の時間が一日のコミュニケーションの場になっていました。英語で自分の意見を伝えるのは大変でしたが、家族が根気よく聞いてくれたことで少しずつ自信がついていきました。
一方で、日本人の「食へのこだわり」も再認識しました。日本では食材の新鮮さや四季の食文化を大切にします。例えば秋にはサンマ、春には山菜といったように、旬を楽しむ習慣があります。アメリカではそこまで強く意識されていないようで、スーパーには一年中同じ野菜や果物が並んでいました。便利ではありますが、どこか味気なく感じることもありました。
ボストンにシニア留学する女性の方ともこのテーマで色々話しました。こうした違いを経験してみて、私は「どちらが正しい」ということではなく、「文化によって食事に対する価値観が異なる」ということを学びました。日本の丁寧で多彩な食文化も、アメリカの合理的で自由な食習慣も、それぞれの国の生活スタイルに根づいています。ボストンでのホームステイを通じて、食事を単なる栄養補給ではなく「文化を知る入り口」としてとらえることができたのは、大きな学びになりました。